『避難リスクは被曝リスクの何倍?』の比較は不適切です。

 id:tikani_nemuru_M氏の以下のエントリーですが、出どころ不明のデータを用いて不適切な比較を行っていると考えます。

『避難リスクは被曝リスクの何倍?』
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20110901/1314817487

1: 出どころ不明のデータ

 山下俊一氏がインタビューで述べたらしい「チェルノブイリでは避難住民の寿命が65歳から58歳に低下しました」という数字が正当かどうかですが、

>海外の専門家の目にもさらされる外国雑誌のインタビューだしにゃ

 そんなことを信頼性の根拠にされても困ります。具体的な数字の出どころを示してもらわないと。*1
……冒頭に結論を言ってしまいましたし、正直これだけで済ませたいのですが続けます。


2: 「避難住民の寿命が65歳から58歳に低下」について、もう少し

 何年から何年か、のデータかもわからない数字を元になにか言うのは辛いのですが、頑張って続けます。
 tikani_nemuru_M氏も大好きな疫学ですが、ある集団のなかでの数字だけ見るのではなく、他の集団と比較するのが大事であるようです。そこで、氏も以前のエントリーで挙げていたロシアの平均寿命推移を見てみましょう。

「図録▽ロシアの平均寿命の推移」( http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8985.html )から引用

 男性の平均寿命が「65歳から58歳に」とまったく同じと言っていいぐらいに下がっています。解説によると、チェルノブイリ事故のあとに起こったソ連崩壊による影響を受けているようです。
……あれ、避難者もソ連崩壊による影響を受けてるから、平均寿命の低下が避難によるものかどうか見るのって難しくね?*2


3: 不適切な比較

 tikani_nemuru_M氏は移住による環境変化などに伴うストレスと、放射線被曝について比較(らしきもの)をしています。居住し続けることによってもストレスの影響は受けるのですから、明らかにこれは不適切です。
 たとえば、避難しようとした人間に対して「逃げるのか!」と罵声を浴びせるような環境に住み続けることは普通に考えて苦痛でしょう。また、それ以前に、農家・畜産家の現在のストレスはどれほどでしょうか。
 比較するならば「移住したときと、そうでないとき」それぞれについて、各種リスクを列挙して、総計や分散、不確実性などについて検討するべきだと思います。*3もちろん移住については、国や自治体、その他の支援者による支援の程度によっても、ずいぶん値が変わってくるでしょう。


(追記)
コメントがある場合ですが、可能であればコメント欄やはてなブックマークではなくご自身のはてなダイアリーでお願いできればと思います。>id:tikani_nemuru_Mさん。

*1:「65歳から58歳に低下」の65歳というのは、当時のウクライナの平均余命から5歳程度低いもので、どう考えたものか困っています。

*2:tikani_nemuru_M氏は「ソ連崩壊も大きな社会変動、環境の変化を伴ったものであるからして、むしろ自分の主張を補強するものだ」とか言いそうですが。避難という枠組みを外してどうするんですかというか、原発事故の影響を受けている福島のひとたちは、今まさに社会変動、環境の変化のまっただ中にいるだろう、としか。次節の「そもそも、なにとなにを比較しているの?」という話にも繋がります。

*3:なお、はてなブックマークで氏は「居住ストレスは以前に触れている」と書いていますが、そうであるならば当然、今回の比較時に検討項目に含めるべきだと考えます。それを怠っている理由がわかりません。