しかし、ブッシュが勝利したことによる主な利益は、国際政治に関するものだ。もしケリーが勝っていたならば、自由主義者たちはイラク戦争の結果に直面せざるを得なかったであろう。そしてブッシュ陣営は、本来は彼ら自身が行った破滅的決定の結果に関して民主党を非難するであろう。
 ジーン・カークパトリックは1979年における有名なCommentary essay「独裁者と二重基準ダブル・スタンダード)」において、共産主義体制を積極的に転覆させる一方で右派の独裁者とは協力するというアメリカの政策を正当化するために、権威主義体制と全体主主義体制とを区別することに苦心している。
 これによると、権威主義的な独裁者は自らの権力と利益に関心がある現実的な統治者であって、何らかの大義に対してリップサービスをすることがあっても、イデオロギー的な問題には無関心である。対照的に全体主義体制の指導者は、私心のない、イデオロギーに駆り立てられた狂信者であり、自らの理想のためにあらゆるものを犠牲にささげるような存在である。それゆえ、合理的かつ予期可能な反応をする権威主義的な統治者とは一緒にやっていくことができるが、全体主義リーダーはより危険で、直接立ち向かわなければならないような存在なのだ。
 皮肉なことに、この区別によってアメリカによるイラク占領の何が間違っていたかが完璧に要約されてしまう。サダムは野蛮かつ現実的な配慮(そのことによって、彼は80年代を通してアメリカ合衆国に協力した)に駆り立てられた、権力を渇望する堕落した権威主義的独裁者であった。しかし、彼を追い出す際にアメリカの干渉は、どんな実際的な妥協をも排除するような「原理主義者」の反対勢力を作り出してしまったのだ。