アメリカのキリスト教原理主義におけるベストセラー小説、ティム・ラヘイとジェリー・ジェンキンズの「残されたものたち」(レフトビハインド)シリーズを取り上げてみよう。来るべき世界の終末について描かれたこの12冊の物語は、合計6000万部の売り上げがある*1
「残されたものたち」のストーリーは、何百万もの人々が突然に不可解な消滅を遂げたことから始まる。彼らは「救われし魂」であり、彼らにハルマゲドンの恐怖を味わわせないために、神は自らの元へと彼らを呼び寄せたのだ。それからアンチ・キリストが、ニコライ・カルパチアという名前の、若く弁舌巧みでカリスマ的なルーマニアの政治家として姿を現す。
 彼は国連事務総長に選ばれた後に、全ての国家を武装解除する反米的な世界政府を樹立せんとするため、国連本部をバビロンへと移転させる。このバカげた筋書きはついには、すべての非キリスト者――ユダヤ教徒イスラム教徒、あるいはそれ以外――が浄化の炎によって焼き尽くされてしまうような最終戦争へと展開していく。
 仮にイスラム教の立場から書かれた類似の小説がアラブの国々でベストセラーになった場合の、西側の自由主義的メディアによってなされる抗議について想像してみよう。我々に息を飲ませるのは、この小説の貧困さや原始性であるというよりもむしろ「真剣な」宗教的なメッセージと、ポップカルチャー商業主義におけるクダラない「お約束」との間に奇妙な共通部分があることなのだ。

*1:日本語の翻訳もあるそうな。http://www.wlpm.or.jp/leftbehind/index5.htm