Slavoj Zizek ”You May!”(その17)

('You can do your duty, because you must do it' is how Kant formulated the categorical imperative. ……)
『あなたは自らの義務を果たすことができる。なぜなら、あなたはそうしなければならないからだ』というのは、カントが定言命法を定式化したやりかたである。この定式を反転させた推論というのが、通常、道徳的制約の基盤として用いられる。『あなたはそうすることが出来ない。なぜなら、あなたはそうするべきでないからだ』という具合に。
 クローン人間に反対する人々の議論として、たとえば、魂の性質が操られてしまうような存在へと人間を矮小化してしまうために、クローン技術は許されるべきではないという意見がある。これは、ウィトゲンシュタインの有名な言葉「語ることができないものに関しては、沈黙せねばならない」の異なったバリエーションである。言い換えると、我々は「我々はそれをすることができない」と言うべきであるということになる。なぜなら我々がそう言わなければ、我々はそれをするかもしれないからだ。そして、その結果として倫理的なカタストロフが生じるかもしれない。
 キリスト教におけるクローン技術の反対者が、魂の不滅と人格の唯一性を信じているならば――すなわち、私というものが、遺伝暗号と環境とが相互作用する結果であるという以上のものだと信じているならば、なぜ彼らはクローン技術に反対するのだろうか? 遺伝子テクノロジーが我々の人格のまさしく核の部分へと踏み込むことが出来るということを、彼らは実際には信じているのではないだろうか?
 なぜ一部のキリスト教徒は、私の体のクローンを作ることによってあたかも同時に「私の不滅の魂」のクローンが作られてしまうかのように、『受胎の測り難い神秘』の話をすることによってクローン技術に反対するのだろうか?