内田樹の研究室9月17日
http://blog.tatsuru.com/archives/000407.php

村上春樹はおそらく青年期のどこかの段階で、自分の仕事が「センチネル」あるいは「キャッチャー」あるいは「ナイト・ウォッチマン」である、ということをおぼろげに感知したのだ。
アフターダーク』は二人の「センチネル」(タカハシくんとカオルさん)が「ナイト・ウォッチ」をして、境界線のぎりぎりまで来てしまった若い女の子たちのうちの一人を「底なしの闇」から押し戻す物語である。彼らのささやかな努力のおかげで、いくつかの破綻が致命的なことになる前につくろわれ、世界はいっときの均衡を回復する。でも、もちろんこの不安定な世界には一方の陣営の「最終的勝利」もないし、天上的なものの奇跡的介入による(deus ex machina)解決も期待できない。
 ライトノベルだか何だかの評に見えてしまうのが可笑しい。センチネルやナイトウォッチを、歩哨や夜警という言葉に置き換えると全然違った印象の文章になるんではないかしら。