もちろん、決して我々は公然とはそれらの動機を認めることはない。にも関わらずそれらはときおり、検閲修正され、見せかけは否定的な装いで我々の公的なスペースへとヒョイと現れる。それらの動機は他の何かの付属品として呼び出されるやいなや、即座に廃棄処分されてしまう。

 ウィリアム・ベネット*1――強迫的なギャンブラーであり"The Book of Virtues"の著者でもある――が彼がホストを務める「モーニング・アメリカ」(リスナーが電話で参加するタイプのラジオ番組)で行った最近のコメントを思い起こそう。
「しかし、私はあなた(ベネットと電話で会話しているリスナー)が犯罪を減らしたいならば、そう出来ることを知っている。犯罪率低下があなたの唯一の目的で、そしてあなたがこの国の全ての黒人の乳幼児を中絶することが出来るなら、結果として犯罪率は低下するだろう。それは極度にバカげていて道徳的に非難される行いであるだろうが犯罪率は低下するだろう」*2
 ホワイトハウスの大統領報道官がすぐさま反応を返した。「大統領はコメントが不適切だと考えています」
 ベネットは2日後に発言を修正した。
「私は仮定の話をしていたのだ。特定のグループ全体の中絶を推奨することは道徳的に非難されることである。しかし、これはあなたがたが『目的によって手段が正当化される』と主張するときに起こることなのだ」
 まさしくこれこそ、フロイトが「無意識は否定を知らない」と書いたときに意味したものである。公的な(キリスト教的な、民主主義的な……)言説が、検閲修正されないと許可されないような類の「猥褻で人種差別的で性差別的な幻想の集合体」に伴われ支持されているのである。*3



*1:訳注:レーガン政権で教育長官、父ブッシュ政権で麻薬対策責任者を務める。 http://www.bennettmornings.com/ とか http://en.wikipedia.org/wiki/William_Bennett とか。

*2:訳注:コメントの前後の文脈は http://mediamatters.org/items/200509280006 などを参照。テキトーに要約すると、最初に(おそらく)中絶反対派であるリスナーが「税収が減って社会福祉が厳しくなるって口々にメディアは言ってますよね。でも、ちょっと前に読んだ記事によると、中絶が許可されてから30年間に中絶によって失われた税収(中絶される⇒人口が減る⇒税収が減る、という理屈)の額は、現在の社会福祉費の総計に匹敵するらしいんです。どうしてメディアはこういうことをもっと報道しないんでしょうね?」とベネットにトンチキな質問を行う。んで(おそらく)同じく中絶反対派であるベネットは(おそらくは頭を抱えながら)ツッコミを入れる。「いいかい、お前さん。人口増で収入が増えるってことはその分、社会福祉費も増えるってことじゃねえか。それに、ちょっと前に出た"Freakonomics"って本では中絶率が上がると犯罪率は下がるかもって仮説を立ててるんだよ」 「だからその手の安直な外挿には気を付けなきゃ。それにそもそも、税収が多い少ないとかは関係なく、ダメなものはダメってのが大事なんじゃないか」

*3:訳注:キリスト教的によろしい「いかなる理由があろうと中絶は許されるべきではない」という主張の付属品(主張を補強するためのダシとしての極端な仮定)という装いで、黒人に対する偏見や憎悪が公的スペースにヒョイと現れたわけです。