(翻訳)アメリカ陸軍における「起きていることはすべて正しい」
うんまあ、タイトルで釣る、みたいなことを一度やってみたかったのです。
戦争に行って実りある人生を・・・米陸軍が戦闘体験のポジティブ効果に注目、自己啓発活動としての兵役を呼びかけ。(ジョークじゃないよ)http://www.armytimes.com/news/2009/10/ap_combat_positive_effects_research_101909/
(http://twitter.com/gloomynews/status/5029696216)
というのを見かけたので、読むついでに適当に訳してみましたよ。読んでみての感想は「これはひどい」ということで。
あ、「自己啓発活動としての兵役を呼びかけ」なんてことは書いてなかったので、上の惹句は不適切だ、ということは言っておきます。
ではどうぞ。
http://www.armytimes.com/news/2009/10/ap_combat_positive_effects_research_101909/
「戦闘のポジティブな効果が検討される――何人かの兵士は従軍して自分が成長したと感じる――」
グレッグ・ゾロヤ(USAトゥデイ紙)2009年10月20日
アフガニスタン、ワルダック地方(WARDAK)――グレゴリー・フリッケン(Gregory Frikken)曹長は、イラクとアフガニスタンでの3回の遠征は家族と過ごす貴重な時間を彼から奪ったが、彼を変えてくれた――いくつかの点で良い方向に――と言います。
個人的な強さの感覚、人生に対する感謝、家族への愛情が高まったと、ここで戦っている第10山岳師団*1の支援砲火(artillery fire)を指揮している39歳のフリッケン曹長は言います。「戦闘を経験する以前の私とは、同じ人間ではないのです」
フリッケン曹長のような兵士たちに起きたことを見て、陸軍の指揮官たちは、GI(米兵士の俗語)たちが自らの内奥を見つめ、戦闘がどのように自らを感情的により強固にしたかを発見することを促すという回復プログラムを作成することになりました。
研究によると、多くの人々は外傷的な経験から大きな自信や、鋭敏な思いやりの感覚、人生への感謝といったものを携えて浮上する(emerge)ことができる。そのように、ロンダ・コーナム(Rhonda Cornum)准将――陸軍の包括的な兵士適応プログラムの責任者――は言います。コーナム准将や他の専門家はこの概念を『トラウマ(心的外傷)後の成長』(post-traumatic growth)と呼んでいます。
戦闘においてメンタルヘルスの状態を向上させる部隊に軍部は注目しているものの、コーナム准将は、退役軍人の大多数は心的外傷後ストレス障害(PTSD)やその他の問題で傷つくことはないと言います。
「我々は誰かが何らかのポジティブな成果を得たかどうか質問することは決してありません。我々はこの病気の長いリストについて質問するのみなのです」と、戦闘地域から兵士たちが帰還した際に直面する、健康に関する質問の集中砲火に言及しながらコーナム准将は言います。
しばしば彼女は、湾岸戦争で捕虜となった自らの経験について暗に示しています、(それとなく)言及しています。1991年、陸軍大尉で航空医官であったコーナムは、イラクで撃墜されたブラックホークヘリコプターに搭乗していました。7人の兵士のうちの5人が死亡しました。両腕を骨折し肩に銃弾を受けたコーナムは、他の2人の兵士とともに捕虜となり8日間拘留されました。*2
彼女の目標は、兵士たちが戦闘から復帰した3〜6ヵ月後に渡される健康問診票に、トラウマ的成長(traumatic growth)*3についての自己評価の項目を含めることです。彼女はまた、イラクやアフガニスタンに配備されるGIたちに対して、配備の前後にある準備期間に、戦闘を生き延びたあとで自らの生き方がどのようにより良く変わったかを述べる兵士たちを撮った短いビデオ番組を見せることを含めたいと考えています。
1年以内に新しいツールを実施することが可能になるだろうとコーナム准将は述べています。
『トラウマ後の成長』の専門家であるノースカロライナ大学シャーロット校のリチャード・
テデスチテデスキ(Richard Tedeschi)は、陸軍と共同のプロジェクトを行っています。彼はこの取り組みを「未知の領域」であると呼びますが、この研究によって、兵士が戦闘経験から価値を見出していることが示唆されていると言います。もし、基礎的な訓練の最初に『トラウマ後の成長』の可能性について伝えられていれば、「戦闘経験はPTSDを引き起こし、自分をダメにしてしまう」と兵士たちが反射的に思い込んでしまうことはなくなるだろう、とテデスキは言います。
テデスキは最近のワシントンのアメリカ公共政策研究所*4での発言において、何人かの軍人たちは戦闘のあとで彼らの人生がとても深く変わってしまったと感じており、彼らが経験してきたことに対して感謝を示している――たとえ、その代償が、身体への永続的な損傷だったとしても――と述べています。
「彼らは、戦闘以外では成しえなかったような形で自らが変わったと感じています」とテデスキは言います。「このトラウマは彼らを他の人々から切り離してしまいますが、同時に、自分が以前よりも人間的であり、人間であることの意味と深く結びついていると自らをみなすことを、おそらくは可能にするのです」
結婚して3人の子どもがいるフリッケン曹長は、ここの空挺前線基地(Forward Operating Base Airborne)から任務に向かいます。彼は、累計で33ヶ月近いイラクとアフガニスタンでの戦闘について「毎日が人生最後の日であるかのように生きることを実感させてくれます。何ごとも与えられて当然のことだとは、私は思っていません」と言います。
テデスキは、この経験は生存者サバイバー*5たちに「『私は何者なのだろう?私の人生の目的とは何だろう?』ということを解き明かそうとする」ことを強いると言います。「私たちは、ひとびとがこの方向に進むことを支援する方法を見つけたいと考えています。なぜなら、それが、このトラウマによる情動(affects)を和らげる方法なのですから」
テデスキは彼の概念が論議の的になるものであることを認めています。
コネチカット大学教授の臨床心理学者ハワード・テネン(Howard Tennen)は、『トラウマ後の成長』は何人かの人々には起こるかもしれないが、それを測定することは難しいと述べます。成長の感覚を促進することがポジティブな結果につながるという考えを支持する証拠は存在していないと、彼は言います。
この概念には説得力があると感じている、とコーナム准将は言います。
「私たち*6は悪いことが起こることを望んでいるわけではありません」と彼女は言います。「しかし、もし、不運な環境から何かを学ぶ機会が存在するのであれば、私たちはその機会を確実に活用したいのです」
*2:このことについて本を書いたそうな。『イラク軍に囚われて―米陸軍少佐ロンダ・コーナム物語』http://www.amazon.co.jp/dp/4163470506/
*3:前に出てくるpost-traumatic growthとどう違うかは不明。誤りでpostが抜け落ちただけなのかも。
*4:the American Enterprise Institute 略称:AEI。共和党系、保守系のシンクタンクだそうな。1943年設立。
*5:原文ではsurvivor。ここでは単なる戦闘の生存者ではなく、児童虐待や性暴力、ドメスティックバイオレンスなどの被害者のことをサバイバーと呼ぶのと、おそらくは同じ使いかたをしていると思われる。たとえばサバイバーとは - はてなキーワードなどを参照。『かつては暴力被害者を「犠牲者:victim」とよんでいた。サバイバーという言葉は、無力でかわいそうな「犠牲者」ではなく、過酷な暴力をさまざまな努力をして生きのびた人として、「被害者」の回復の視点から「被害者」をとらえなおした言葉』
*6:ここでの"We"が曲者かもしれません。コーナム准将が「私たち」というとき、それは、彼女も含めたサバイバーたちのことなのか/それとも、彼女が指導部の一員として関与しているアメリカ軍のことなのか。そこの二重性。